2026/09/15
「歯にいいと聞いたので、鹿の角をかじらせているんです」「硬いおもちゃでないと、すぐ壊してしまって……」——そんなお話のあとにお口を診ると、上の奥歯が欠けている。最近、当院ではこうした場面が続いています。
デンタルガムは、硬いほど歯によいわけではありません。 硬すぎる物を噛むと歯に強い力がかかり、折れたり欠けたりすることがあります。この記事では、避けたい物と選び方、歯が欠けたときの受診の目安をお伝えします。
歯の破折(はせつ)とは
破折とは、歯が折れたり欠けたりすることです。犬では、きばや上あごの奥にある大きな歯によくみられます。
歯の内側には、神経と血管が通る「歯髄(しずい)」があります。そこまで欠けると細菌が入り、痛みや感染の原因になります。小さな欠けに見えても深さは判断しにくいため、診察で確かめましょう。
こんなサインに注意
犬は歯が痛くても食べることがあり、食欲だけでは判断できません。次の変化があれば、お口のトラブルが疑われます。
- 歯の一部が欠けている、折れた面に赤や黒っぽい点がある
- 歯の色が灰色や紫色に変わった
- 片側だけで噛む、硬いおやつを残す、食べ物を落とす
- 口を触られるのを嫌がる、よだれや口臭が増えた
- 目の下や顔が腫れている、膿が出ている
変色は歯髄が傷んでいる可能性を示します。嫌がるときは無理に口を開けず、ご相談ください。
主な原因は、硬すぎるガムやおもちゃ
噛んだ物がへこまず、しならないと、歯に強い力がかかります。「天然素材」「デンタル用」という表示だけでは、歯への安全性は判断できません。

- 鹿の角・ひづめ・動物の骨:破折の原因になるため避けましょう。骨は生・加熱済みを問わず、破片によるトラブルにも注意が必要です。
- 硬いナイロンやプラスチックのおもちゃ:丈夫さに加え、柔軟性も確認しましょう。
- 硬すぎるデンタルガム・乾燥おやつ:歯みがき用でも硬さはさまざまです。下の目安で確かめてください。
- 石・氷・金属製ケージの柵:噛ませないようにしましょう。
硬い物を噛んで表面の歯石が一部落ちる場合はありますが、歯周病を防げるとは限りません。歯石を落とす目的で骨などを与えることはおすすめしません。
折れてしまったときの治療
診察と歯科レントゲンで、欠けた深さや歯の根の状態を調べます。浅い欠けなら、表面の保護や定期的な確認で対応できる場合があります。
歯髄が露出していれば、痛がっていなくても治療が必要です。 放置すると感染が歯の根の先へ広がるため、歯を残すための歯内治療、または抜歯を検討します。歯内治療には神経を取り除いて内部を処置する方法もあり、必ず神経を残せるわけではありません。
当院では抜歯での対応は可能ですが、破折した歯を温存する歯内治療をご希望の場合は専門の診療施設をご紹介しています。詳しい検査・処置には全身麻酔が必要なため、歯の状態と年齢・持病を踏まえて方針をご相談します。
予防のポイント
噛む楽しみをすべて取り上げる必要はありません。次の点を組み合わせて選びましょう。
- 硬さ・柔軟性:親指の爪で押してへこむか、手で曲げるとたわむかが目安です。どちらも満たさない硬い物は避けます。
- 大きさ:製品の対象サイズを確認し、丸のみしにくい物を選びましょう。小さくなった物や破片は回収します。
- 見守り:与えっぱなしにせず、噛み砕いて飲み込もうとする場合は使用を中止しましょう。
爪やたわみの確認は、事故が起きないことを保証する基準ではありません。噛み方にも個体差があるため、迷う物は現物をお持ちください。

歯のケアの基本は毎日の歯みがきで、デンタルガムは補助です。効果を選ぶ目印として、歯垢や歯石の蓄積を抑える効果が審査された製品に付く「VOHC」のマークも参考になります。認定品でもサイズを守り、見守って使いましょう。

当院での実際
当院では、硬い物を噛んだことが原因と考えられる破折の来院が続いています。上の奥歯に多く、別の症状での診察や健康診断で見つかることもあります。飼い主様が気づいていないケースもあるため、気になるガムやおもちゃがあれば、お口と一緒に確認しています。
受診の目安
歯が折れたり欠けたりしていることに気づいたら、早めに受診しましょう。 普通に食べていても、痛みがないとは限りません。見た目だけでは欠けた深さを判断しにくいため、診察で歯の状態を確認することが大切です。
欠けているか自信がない場合や、歯の変色・噛み方の変化が気になる場合もご相談ください。次の定期健診まで待たず、受診の予定を立てましょう。
異常がなく、ガムやおもちゃの選び方だけを確認したい場合は、次の診察時にご相談ください。
よくあるご質問
Q. 鹿の角やひづめは歯にいいと聞いて与えていました。だめだったのでしょうか?
A. 歯のためを思って選ばれたのだと思います。ただ、鹿の角やひづめは歯を折る原因になるため、今日から別の物へ替えていきましょう。あわせて、お口に異常がないか確認できると安心です。
Q. 折れた歯は、抜くしかないのでしょうか?
A. 折れ方によっては、歯を残す治療も検討できます。当院では必要に応じて専門施設をご紹介しますので、まずは歯の状態を調べ、その子に合った方法をご相談しましょう。
Q. 結局、デンタルガムはどれを選べばいいですか?
A. 硬さと柔軟性に加え、愛犬に合うサイズか、丸のみしないかを確認しましょう。迷う候補はそのままお持ちいただければ、お口の状態や噛み方に合わせて一緒に考えます。
まとめ
デンタルガムは硬いほどよいわけではなく、鹿の角や骨、硬すぎるおもちゃは歯を折る原因になります。硬さ・サイズ・見守りを組み合わせ、歯みがきの補助として使いましょう。歯が欠けていたら、普通に食べていてもご相談ください。まずは今日、おうちのガムやおもちゃをひとつ手に取り、硬さを確かめてみてください。
この記事を書いた人
たいち動物病院 院長(獣医師) 名古屋市で犬猫の一般診療・トリミング・ペットホテルを行う、たいち動物病院の院長。地域の飼い主様とペットの毎日に寄り添う診療を心がけています。
「これは硬すぎないだろうか」と迷ったガムやおもちゃは、どうぞ診察時にお持ちください。
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