2026/07/27
「仕事から帰ったら、猫が口を開けてハアハアしていて……」「うちは室内飼いだから、熱中症は関係ないと思っていました」——蒸し暑い季節になると、こうしたご相談が寄せられます。
じつは、猫の熱中症の多くは閉め切った室内で起きています。しかも猫は不調を隠すのが上手なうえ、犬のように暑さをハアハアと表に出さないため、飼い主様が気づいたときにはかなり進行していることも少なくありません。この記事では、猫の熱中症のサインと応急処置、そして「すぐに病院へ行くべき目安」までをわかりやすくお伝えします。

猫の熱中症とは
熱中症とは、体にこもった熱を逃がしきれなくなり、体温が異常に上がって全身にダメージが及ぶ状態です。猫は人間のように全身に汗をかくことができず、体の熱を逃がす手段がとても限られています。そのため、気温と湿度が高い環境に長くいると、自力では体温を下げられなくなってしまいます。
「猫は砂漠出身だから暑さに強い」と聞いたことがあるかもしれません。たしかに猫は暑さをしのぐのが上手な動物ですが、それは逃げ込める涼しい場所と水があることが前提です。閉め切った部屋で逃げ場がなければ、猫でも熱中症になります。日本の夏は湿度が高く、体から熱が逃げにくいため、なおさら注意が必要です。
犬の熱中症についてはこちらの記事で詳しく解説しています。犬と猫では危険なサインの現れ方が違うので、両方と暮らしている飼い主様はあわせてお読みください。
こんなサインに注意
次のような様子が見られたら、熱中症のサインかもしれません。
- 口を開けてハアハアと呼吸している(犬のようなパンティング)
- 呼吸が速い、浅い
- ぐったりして動かない、呼んでも反応がにぶい
- よだれが多い
- 歯ぐきや舌がいつもより赤い
- 嘔吐や下痢をしている
- ふらついて、まっすぐ歩けない
とくに覚えておいていただきたいのは、猫が口を開けて呼吸するのは、それ自体が異常のサインだということです。犬は暑いときに舌を出してハアハアするのが普通ですが、猫は基本的に鼻で呼吸する動物です。口呼吸をしている時点で、体にかなりの負担がかかっていると考えてください。

主な原因——室内でも起こります
猫の熱中症は、「炎天下の屋外」よりも、むしろ次のような身近な場面で起きています。
- 閉め切った部屋での留守番:エアコンの切り忘れ・タイマー切れ・停電で、日中の室温が急上昇する
- ケージやキャリーの中:自分で涼しい場所へ移動できない。通院や移動中の車内はとくに危険
- 直射日光の当たる窓際:ガラス越しの日差しで、その一角だけ高温になる
- 飲み水の不足:器が空になっていた、こぼれていた
また、同じ環境でも熱中症になりやすい猫がいます。高齢の猫、肥満気味の猫、心臓や呼吸器に持病のある猫は体温調節の力が弱く、ペルシャなどの鼻の短い品種や長毛種も熱がこもりやすい体のつくりをしています。当てはまる子は、より手厚い暑さ対策をしてあげましょう。
疑ったときの応急処置と治療
熱中症を疑ったら、まず涼しい場所へ移動させて体を冷やしながら、動物病院へ連絡してください。応急処置の基本は次のとおりです。
- エアコンの効いた部屋へ移す。風通しをよくし、扇風機の風をやさしく当てる
- 常温の水で濡らしたタオルで体を包む、または水で体を軽く濡らす。氷水でいきなり冷やすのは体の表面の血管が縮んで逆効果になることがあるため避ける
- 意識があり、自分で飲めるなら水を飲ませる。ぐったりして意識がはっきりしない子に無理に飲ませるのは、誤嚥(ごえん・水が気管に入ってしまうこと)の危険があるためしない

そして、いちばんお伝えしたいのは、冷やして落ち着いたように見えても、必ず受診してほしいということです。熱中症は体の内側——腎臓や肝臓、血液の固まる仕組みなど——へのダメージが、数時間から数日遅れて現れることがあります。病院では体温や血液検査で全身の状態を確認し、点滴などで臓器を守る治療を行います。見た目の回復と体の中の回復は、別物と考えてください。
予防のポイント
猫の熱中症は、環境を整えることでほぼ防げます。ポイントは「温度」「水」「逃げ場」の3つです。
- 留守番中もエアコンはつけっぱなしに。室温の目安は28℃を超えないくらい。湿度が高い日は除湿も活用する
- 水飲み場を複数か所に。1か所がこぼれても大丈夫なように、部屋を分けて2〜3か所置く
- 涼しい場所への通り道を確保。北側の部屋や廊下、風呂場のタイルなど、猫が自分で選べるように扉を少し開けておく
- 直射日光の当たる窓はカーテンで遮る
- 留守番用の備えとして、スマートリモコンや室温計つきのペットカメラがあると、外出先から室温を確認できて安心です

通院などでキャリーに入れて移動する日は、車内を先に冷やしておく、保冷剤をタオルで包んでキャリーに添えるなどの一工夫をしてあげてください。
当院での実際
当院でも、高齢の猫や肥満気味の猫は熱中症が重症化しやすいと感じています。若く健康な猫なら耐えられる暑さでも、体温調節の力が落ちていたり、脂肪で熱がこもりやすかったりする子は、同じ部屋にいても危険度が違います。シニアの子やぽっちゃり気味の子と暮らしている飼い主様は、「うちはまだ大丈夫」と思わず、ひとつ手前の対策を心がけてあげてください。暑さ対策や体重管理のご相談も、診察の際にお気軽にどうぞ。
受診の目安
- 今すぐ受診(応急処置と並行して):口を開けた呼吸が続いている、ぐったりして反応がにぶい、意識がない、けいれん、嘔吐や下痢をともなう、ふらついて歩けない。体を冷やしながら病院へ向かい、可能なら到着前に電話で状況を伝えてください
- 当日中に受診:冷やしたら落ち着いたように見える場合。前述のとおり、臓器へのダメージは遅れて現れることがあるため、元気そうでもその日のうちに一度診せてください
- 次の機会に相談:高齢猫・肥満猫・持病のある猫の暑さ対策を相談したい、留守番環境に不安がある
よくあるご質問
Q. 留守番のとき、エアコンは何度に設定すればいいですか? つけっぱなしでいいのでしょうか? A. 夏の日中の留守番は、つけっぱなしをおすすめします。タイマーで切れる設定は、切れたあとの室温上昇が危険だからです。設定温度は28℃前後を目安に、湿度が高い日は除湿もあわせて使ってください。ただし適温はその子の年齢や体格によっても変わるので、帰宅時に猫が涼しい場所へ避難していないか、床にべったり伸びていないかを観察して調整するとよいでしょう。
Q. 口を開けてハアハアしていたら、すぐ病院に行くべきですか? A. 続いているなら、すぐにご連絡ください。猫の口呼吸は犬と違って「よくあること」ではなく、熱中症のほかに心臓や呼吸器の病気が隠れていることもあります。遊んだ直後の数十秒でおさまるなら緊急ではありませんが、涼しい場所で休ませても続く場合は迷わず受診してください。
まとめ
猫の熱中症は、閉め切った室内という身近な場面で起こり、口を開けた呼吸やぐったりした様子が危険のサインです。いっぽうで、エアコン・水・逃げ場という環境づくりでほぼ防げる病気でもあります。冷やして落ち着いたように見えても、臓器へのダメージが遅れて出ることがあるため、その日のうちの受診が安心です。本格的な暑さが来る前の今日、留守番中の設定温度と水飲み場の数を、一度確認してあげてください。
この記事を書いた人 たいち動物病院 院長(獣医師) 名古屋市で犬猫の一般診療・トリミング・ペットホテルを行う、たいち動物病院の院長。地域の飼い主様とペットの毎日に寄り添う診療を心がけています。
暑い季節の「なんだか様子がおかしい」は、迷っている時間がいちばんもったいないものです。気になったら、どうぞすぐにご相談ください。
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